17 Pâtisserie Millésime
誰かと一緒に過ごしたくなる〈ミレジム〉のケーキと焼菓子。

生産者の顔がわかるお菓子を作りたい。 こだわるとキリがありませんが。
ひとつ、ふたつと食べたくなるちょっと大きめなあのケーキ。
ファボーレ近くにありながら、住宅街の中ともあって女性たちだけでなく、お小遣いを握りしめてくる子ども、大切な人たちのためにまとめ買いする男性など訪れる人はさまざま。
「焼菓子の詰め合わせを贈りたいんだけど」
そんな光景も、日常のこと。
「うちのお菓子、特にケーキはひとつひとつが大きめです。これが私が食べてもらいたい大きさであり、フランスで働いていた時もだいたいこれくらいの大きさで作っていました」
そう話すのは、オーナーシェフの大久保さん。聞けば甘み、満足度が2個で満たされるように追求して作っているとのこと。確かにクリームが軽め、甘さ控えめ。ショコラ系ケーキも、甘いだけでなく、スッキリ。口の中でサーッと溶けてあとから香る余韻にうっとり……とにかく飽きがこない。えっ、ショコラってこんなにやさしかったの? 見た目の美しさとショコラの多さに、変に口に残るあと味を覚悟していたら、その真逆だなんて!
「ショコラの固形性のみで作っていて、ゼラチンなどは使っていません。それは最終手段であり、もっと工夫できるんじゃないかって」

「味を左右するのは99%食材で、1%はアイデアと技術」が、大久保シェフの信念。添加物・保存料不使用でフレッシュにこだわり、地元農家から旬のフルーツをいただくことも。

12月末には新年を祝うフランスの伝統菓子「ガレット・デ・ロワ」もお目見え。なんとフェーヴ入りという本格派!
自分で決めた道だからなにがなんでもつかみ取る。
大久保シェフの味の追求と美意識、挑戦心は、これまで修行してきた経歴と、出会ってきた人から得て、自分の中で昇華し続けてきたもの。調理の専門学校に入ってフランス料理を学び、神戸にあるフレンチレストランに料理人として就職。そのお店にはパティスリー部門もあり、手伝ったことが、料理からお菓子への転身のきっかけに。
「お菓子を作りたいと上司に相談したら『神戸でオープニングスタッフを募集している店舗があるから、パティシエとしてやってみるか?』と。そこで、恩師である中村シェフと出会いました。姿勢や考え方から多くを学び、また副店長の立場として、経営の一端も任せていただきました」
しかし、勤務期間中に阪神・淡路大震災に遭い、運良くいのちは守れたものの無一文になり、専門学校時代から抱き続けていた渡仏の夢も延期せざるを得ない状況に……。
「落ち着いた頃合いを見て、フランスへ行くことに決めました。何かアテがあったわけでも、勤務先が決まっていたわけでも、フランス語が堪能というわけでもありません。私が持っていたのはフランスの文化を見て、技術を体得する情熱だけでした」
フランスに着いて求人票を手に体当たりで応募し、初めに働いたのがパリのジャック・カーニヤ、次にジェラール・ミュロ。どちらも技術力に優れ、すばらしい腕前のシェフぞろい。同時に厳しさとハードさはかなりのもので、濃密な修業時代だったそう。
「フランスは基本的に実力主義。それが私の性に合いました」
ふり返って話してくれたその横顔は、とても幸せそうで。

フランスのパティスリーはパンも並びます。もちろんミレジムも! 花の形のフィナンシェ、小さなカヌレ、エンガティーナ・ショコラと焼菓子も充実しているんですよ

お菓子に込められた情熱とやさしい気持ちをこれからも。
どのお店でもシェフの動き、考えをつかんで実践し、自分のものにする。怒られても腐らず、お菓子作り、ひいては仕事のコツを自分のものに無我夢中で打ち込んだ渡仏時代。立食パーティーのためにプチフールケーキを500個、周囲のカフェに卸すためにクロワッサン200個一気に作るなど仕事量は多かったけれど、全てがいい経験に。フランス滞在中にとある日本人と出会ったことが、帰国後に富山との縁を結んでくれたそう。
「大切な恩人が住む富山もいいなと」
富山の大手ケーキ店で働き、奥様と出会い、結婚。20歳頃から抱き続けてきた、自分の店を富山で叶えることにした理由のひとつに「生まれてくる子どもに故郷を持たせたい」という親心。
「私の父が商社マンでして。転勤が多くて1ヵ所に3年以上いたことはほぼなかったですね。そのため私には故郷といえる故郷がありませんが、我が子にまで『故郷が無い』という寂しい思いをさせたくない。ここで地に足をつけようと」
そうして2001年にオープンした『ミレジム』は、まちの小さなフランス菓子店として、20年間お菓子を作り続けてきました。それも、フランスの伝統菓子をベースに、自分が心からおいしいと思えるアレンジを加えて。中には現地そのままの味もあるとか。
シェフが作って、奥様やスタッフさんがレジに立って。大切な思いの数々を守り続けるためにも、ずっとこの路地裏の店で、誰かの〈故郷の味〉になっていくのでしょう。
Pâtisserie Millésime

店舗情報
- 店名
- Pâtisserie Millésime
- 住所
- 富山市婦中町速星1001-10
- 電話番号
- 076-466-5135
- 営業時間
- 10:00~19:00(日祝は18:00閉店)
- 定休日
- 火曜、不定休あり
- WEB SITE
- https://www.millesime.co.jp
- ■マスク着用 ■消毒液の設置