16 散居のちいさなスコーン屋さん そらもよう
気持ちの深呼吸ができる〈そらもよう〉のスコーンとフィナンシェ。

地域のものを使って、地域の魅力を発信したい。
手作りで、気持ちを伝えたい初心を忘れずに。
わざわざでも行きたい幸福感に満ちたおやつ屋さん。
金・土・日曜、渡辺さんの朝は早い。
前日から仕込んでおいた生地をオーブンに入れて、焼いて、冷まして、袋に詰めたり、器に乗せたり。弁柄格子を思わせる朱壁のキッチンで、ひとりてきぱきと動き回っています。甘い香りが玄関に満ちるころには、『そらもよう』も開店。看板犬のそら太郎くんも穏やかな顔で渡辺さんのそばに寄り添い、「今日は、どんなお客様が来てくれるかなあ」と目で話し合いそして訪れる、本日最初のお客様。
「ようこそ、いらっしゃいませ!」
それは、ここまで買いに来てくれたことに対する喜びをこめた歓迎の言葉。渡辺さんが作るおやつは、田畑に囲まれたこの一軒家でのみ販売しています。市内など委託販売してくれるところも見つかりそうなのに、どうして?
「散居村を含む砺波を、ここに来ることで体感してほしいから、かな。この景観の中にある古民家というロケーションも、ごちそうなんだよってお伝えできれば」と、やわらかくほほ笑む顔がとてもステキで。

「今までゆかりのある地域、お世話になった人が作ったものを使っていきたいんです。ここまでこれた感謝、ルーツを忘れたくなくて」。その想いもあって、スコーンのキャラメルナッツには千葉のピーナッツも用いて。クロテッドクリームも、季節ごとのスコーンもクッキーも全てがおいしくってキュート!

ちょっとずつ自信をつけて移住と起業を決意した3年間。
2021年3月27日にオープンしたばかりの『そらもよう』ですが、すでにクチコミなどで人気がじわじわ広がっていて、「友人からここのスコーンをもらっておいしかったから、また食べたくなって」と訪れる人もちらほら。田畑に囲まれた一軒家のお店ながら、早い時にはお昼すぎに閉店することも。
「任期中に何度かイベント出店していたんです。その時のお客様も来てくださいますね」
えっ、任期?
「2020年3月末まで砺波市の地域おこし協力隊として、観光協会で働かせていただいていたんです」
地域おこし協力隊とは、都市地域から地方へ移住して、地域協力活動を行いながら定住・定着を図り、地域力の維持・強化を目指す公的制度。任期は最長3年で、渡辺さんは任期満了の3年間勤めました。
「私は千葉出身で、移住前は埼玉など関東圏にいたんです。でも、昔から古民家が好きで、理想の古民家を探して全国の古民家を見た中で、散居村を含む砺波平野の古民家の光景にここだ! と思って。でも、いきなり住み始めるのはさすがに勇気が……その地域になじめるのか、暮らしていけるのか確かめたくて、地域おこし協力隊の制度を使わせていただきました。
現地で働いて、暮して、考えるには十分すぎる期間です。砺波市の観光を広く発信するのは楽しかったし、私も地域を深く広く知る機会になりました。皆さん、とてもやさしくて、ここなら住んでいけそう、と」

隊員仲間が任期後に朝日町で起業した「うし太郎信繁里山蜜」を使用。これも渡辺さんにゆかりのあるもののひとつ。金・土・日には玄関先がおやつでいっぱいに!大きな柿の木がシンボルツリー。サイクリストの立ち寄り場にもなれれば…と、準備中
砺波のおいしいものを五感で楽しんでほしいから。
住む家を見つけて移住を決意するにあたり、どんな仕事をして暮らしていくか?
「まず、自分が何を幸せだと感じるのか、自分の気持ちと向き合いました。私は、ここでの暮らしを満喫したい。のどかな景観の中、おだやかな気持ちで暮らせたら幸せだったら、自分の好きなこと、得意なことで起業しようって」
渡辺さんの好きなものは、紅茶。紅茶に合わせたいものといったらスコーンかなと考えて、任期中に地域おこし協力隊の仲間と一緒に県内のイベントに出店。もちろん渡辺さんが出したものはスコーン。数回出店する中で、「おいしかったから」と、その日のうちに再訪する人もいたほどで、なんと毎回完売!
「自分の将来に向けたジャッジ的な面もあったものの、おやつを作って、食べてもらって、おいしいって言われるのが純粋にうれしくて、自信と決意をいただきました」
コロナ禍の中での開店ともあり、まずはスコーンをメインとしたおやつのテイクアウト専門店としてスタートした渡辺さん。スコーンやプリンには地域のたまごや牛乳を、フィナンシェの柚子味には庄川ゆずを、季節が来たらふく福柿やとなみ野りんごを……と、なるべく地域のものを使いつつ、おいしさも追求。
自分が好きだと感じる砺波の魅力を、他のどこでもない、ここで伝えたいその想いがあるからイベント出店はあっても委託予定はナシ。ここの景観もひっくるめて〈ごちそう〉なのだと、来たら実感できます。
散居のちいさなスコーン屋さん そらもよう

店舗情報
- 店名
- 散居のちいさなスコーン屋さん そらもよう
- 住所
- 砺波市花島128
- 電話番号
- 050-6874-0959
- 営業時間
- 11:00~16:00(商品が無くなり次第閉店)
- 定休日
- 月~木曜、イベント出店時
- WEB SITE
- https://soramoyou-scone.com
- ■マスク着用 ■消毒液の設置