09 光春
かつて感じた憧憬の味をひたすらに追う〈光春〉の和菓子

「おいしさ」の先にある人の心に届く「おいしさ」を。
冬からこつこつ試作。この春、おひろめ。
あの時のお菓子も入っているの。
そう聞くと、期待がふくらみます。だって、一度食べてまた食べたい。とても心に残ったから。碓井さんが作る和菓子はおいしいだけじゃなく、美しくて、可憐で、どこか素朴さもあって。自然を表現しているのはもちろん、その季節ごとの日常も秘められているようで、じっと見ていると動きだしそうなものも……でも、サイズがちっちゃいような?
「小ぶりにしてたくさん箱に詰めたら、見た目も味も楽しいだろうなって。和菓子を気軽に味わってもらえるよう、昨年の冬から試作を重ねていました」
試作には洋菓子をてがける娘さんも加わって、完成した10種類。ねりきり、桜もち、柚子もちのように日本の季節のうつろいを映し取った和の生菓子はもちろん、タルト・タタンならぬ、ちびタタンや、りんごブラウニー、りんごケーキなど、洋菓子のエッセンスもプラス。甘酸っぱいりんご&いもあんを包んだ初恋すずめを本来のサイズと並べてみると、まるで親子のよう。なんとも愛らしい玉手箱のようなプチフール!

碓井さんが幼い頃に好きだったおやつのひとつ、たぬきケーキ。ただし、碓井さんが作るのは和菓子としての「ポンポコたぬき」。黄身あんを浮島で包み、チョコは惜しみなくたっぷりと!

春の定番、黒こしあんを道明寺で包んだ桜もち

加積りんごを使ったりんごブラウニー
恋うように焦がれ追求してきた和菓子。
聞けば碓井さん、和菓子屋を目指して修行をしたのではなくて、憧憬の味との再会を実現すべく、情熱と探求心と手探りでひたすらに作り続けてきたそう。
「母が茶道の先生で、お茶席で出された和菓子を幼い頃からいただく機会が多かったんです。四季折々のお菓子を母と一緒に作ることもあって、和菓子の物語も味も好きで」。とある京都旅行の時、母に連れられて行ったのは一軒の和菓子屋。ごく普通の民家のような佇まいのお店から持ち帰ったお菓子は、価格もさることながら、これまで抱いていた和菓子の印象を覆すほどのおいしさで「こんなに深い味があるのか!」と、感動と驚きを覚えたそう。
帰宅後も「もう一度あの味を」と恋うように思いを馳せる日々。だけどなかなか気軽に京都へ再訪できず、とはいえ
近隣や金沢で探しても望む味は見つからず……。ならば自分で研究して作ろうと考えるも、当時は誰でも作れるような和菓子レシピはなく、あったとしても難しい教本もの。材料や手順はざっくりと書かれていたものの、分量が不明。失敗を繰り返しつつも、自分の手で再現したい情熱は消えず、和菓子教室に通って資格を取得し、自身でも教室を開講し、自分のお店を開くことになってもなお、あの味を追い求め続けてきました。

茶会やお祝いの依頼を受けて作るのが多いため、自宅兼店舗に並ぶお菓子は毎日決まってないそう。お目当てがあれば3~4日前に数個単位で予約がおすすめ
和菓子の奥深さはまだまだ。娘さんと一緒に、その先へ。
碓井さんの和菓子作りは、自分の目で選び抜いた良いもので、丁寧に。あんも豆から炊き、さらしで絞って、機械を使わず手仕事で作り上げています。お菓子によっては魚津の加積りんご、加賀丸いもなどが惜しみなく使われていて、口どけも、甘さも品があります。それでも〈あの味〉との再会はいまだ叶わないものの、がむしゃらに追求して作り続けてきたからこそ、「自分なりの和菓子レシピ」が形作られていったと振り返ります。
そんな碓井さんの背を見て、娘さんは幼い頃から一緒にお菓子を作ると宣言。それもあって、店名は碓井さんと娘さんの名前から一文字ずつ取って名付けたそう。昨年、京都へ菓子修行に出ていた娘さんが戻り、ふたりの技術と感性を融合したお菓子も生み出して……と幅を広げて2021年2月26日で丸10年。「やっとお気に入りの味にであえた!」との声を受けることも。
「過去の自分が叶えられなかったことを代わりに叶えてもらったみたいで嬉しいし、人の心に響く味を作れるようになれたのかなと思うと、喜びと同時に心が引き締まります」
貪欲に、謙虚に。そんなところも、愛されるおいしさのエッセンスなのかもしれません。
光春

店舗情報
- 店名
- 光春
- 住所
- 富山市堀川小泉町2-3-2
- 電話番号
- 076-425-3330
- 営業時間
- 10:00~18:00
- 定休日
- 水曜、日曜、祝日(応相談)
- WEB SITE
- http://www.koushun.jp
- ■消毒液の設置 ■マスク着用