青空の下、車を走らせて。

　富山市から車で約1時間。青い空の下、窓を開けて潮の香りを吸い込みながら、一人、氷見へと向かう。ハンドルを握る手も心も、わくわくどきどき。どんな素敵な出会いが待っているんだろう？
　目指すは『里山工房FICO』。イタリア語で「イチジク」という可愛らしい名前の、イチジク農家が営む焼き菓子のお店だ。ナビに導かれ、田園風景の中をゆっくり進むと、立派な佇まいの古民家が見えてきた。
「こんにちは！」店前のテラス席で、優しい笑顔のご夫婦が出迎えてくれた。昨年新設されたイートインスペースに入ると、手作りの小物や装飾品が飾られ、どこか懐かしいような、温かい雰囲気に、心がふっと和らぐのを感じた。
　店主の廣田さんは、もともと体操の先生だったという意外な経歴の持ち主。実家に戻り、偶然出会ったイチジク畑がきっかけで、かつて田んぼだった放棄地に70本ものイチジクを植えたという。今ではご夫婦仲睦まじく5つの畑で愛情たっぷりのイチジクを育てている。秋には、採れたてのイチジクを使ったジャムやお菓子が並び、多くの人がその味を求めてやってくるそうだ。

昨年オープンしたイートインスペース。奥には小さい子連れでも利用しやすい座敷席も。手作りの温かみが感じられる店内。地元で採れた旬の食材を使ったお菓子が並ぶ。店主の廣田さんご夫婦。今では定年退職されたご主人がイチジクの収穫担当なんだそう。

やさしい甘さが広がる幸せチーズケーキ。

　今日のお目当ては、地元氷見産の速川さつまいもを贅沢に使った「さつまいもチーズケーキ」。フォークを入れると、しっとりとした感触。口に運ぶと、さつまいもの優しい甘さが口いっぱいに広がり、後からチーズのコクが追いかけてくる。土台の米粉のクッキーが、香ばしいアクセントになっている。ああ、なんてやさしい味わいなんだろう。「一度食べた人が、ほかの人に宣伝してくれたり、プレゼントで買って行かれたりすることが多いんです」と廣田さん。その言葉が、このお店の温かさと、お菓子のおいしさを物語っている。

氷見の里山で出会った温もり。

　朗らかで親しみやすいご夫婦の人柄と、時の流れがゆっくりと感じられる里山の風景。「儲けは考えず、地域に愛されるお店でありたい」という廣田さんの言葉どおり、近所の人たちの憩いの場になっているというのも、頷ける。
　ついつい時間を忘れて長居してしまった。気がつけば、もう夕焼け空が広がっている。ああ、いけない、保育園のお迎えの時間だ！ 今度は、大切な家族と一緒に、この温かくて優しい場所を訪れたい。